アカゲザル由来細胞株として提供してきましたMA104細胞(理研登録番号RCB0994)がアカゲザル由来細胞株ではないことが判明いたしました。ご報告を申し上げますとともに、利用者の皆様に深くお詫び申し上げる次第です。
MA104細胞は1994年4月に、英国European Collection of Cell Culture (ECACC)から、アカゲザル由来細胞株として寄託を受けた細胞です。寄託当時は、細胞株の由来動物種を同定する検査方法として、2種類のアイソザイム(lactate dehydrogenase及びnucleotide phosphorylase)を解析する検査方法が一般的であり、当バンクを含め、ECACC、米国ATCC、ドイツDSMZ等の世界の主要細胞バンクが当該アイソザイム検査を実施していました。MA104細胞につきましても、アイソザイム検査を実施し、ECACCからの情報通りアカゲザル由来であると判定して提供をしてまいりました。尚、アイソザイム検査とは、多種類の動物が共通して持っている同じ酵素でも動物種によって構造が異なり、電気泳動によって移動度が異なることを利用して、動物種を判定する生化学的な検査方法です。
2007年、細胞が由来した動物種のより精度が高い検査法として、ミトコンドリアDNAを対象とした分子生物学的な種の同定法(ミトコンドリアDNA同定検査)が開発されました(文献1)。この検査は、ミトコンドリアDNAの塩基配列が動物種によって異なることを利用するものであり、動物種特異的なプライマーを設計して、PCR産物の有無で動物種を検定する方法です。当室でも、2011年より、新規に寄託を受けた細胞については、ミトコンドリアDNA同定検査を実施しております。しかし、2011年以前に寄託を受けた細胞については、アイソザイム検査結果を信用し、ミトコンドリアDNA同定検査を実施しておりませんでした。
昨年、2011年以前に寄託を受けた細胞株の中に由来動物種が寄託者登録情報と異なる細胞株が存在することが発見されたため、2011年以前に寄託を受けた細胞についてもミトコンドリアDNA同定検査を実施することといたしました。その検査の中で、今回の事実が判明いたしました。
図1に示しましたように、MA104細胞を対象としてPCRを実施したところ、アカゲザルを同定できるプライマーではPCR産物が得られず、アフリカミドリザルを同定できるプライマーにてPCR産物が得られました。
尚、ECACCの現在のホームページでは「MA104細胞は、樹立者からの登録情報であるアカゲザル由来ではなく、アフリカミドリザル由来である」ことが記載されております。
MA104細胞を提供した全ての利用者には、陳謝と説明のご連絡を差し上げております。
【今後の対応につきまして】
2011年以前に寄託を受けたヒト及びマウス以外の動物由来の細胞株に関して、ミトコンドリアDNA同定検査が可能な動物種については順次検査を行っております。未検査の細胞の提供依頼があった場合は、提供前に必ず実施することとしています。
引き続き、理研バイオリソースセンターの事業に対してご理解とご支援を賜りたく、宜しくお願い申し上げます。
【文献】
1. Ono, K. et al. Species identification of animal cells by nested PCR targeted to mitochondrial DNA. In Vitro Cell Dev Biol Anim. 43: 168-175 (2007)
【お問合せ先】
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理化学研究所バイオリソースセンター細胞材料開発室・室長
中村幸夫
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